ARPUとは「Average Revenue Per User」の略で、1ユーザーあたりの平均売上高を示す指標であり、SaaSやサブスクリプションビジネスで特に重視されています。
ARPUを測定し、他のKPIとの相関性を分析しながら改善を目指すことで、売上向上が期待できます。
本記事では、ARPUとは何か、ARPAやARPPUといった関連指標との違い、計算方法、そしてARPUを向上させるための具体的な施策について詳しく解説していきます。
ARPU(Average Revenue Per User)の概要
ARPUは、ビジネスの収益性を評価する上で非常に重要な指標です。
特に、ユーザー数が飽和状態にある市場や、サブスクリプション型のサービスにおいて、その重要性は増しています。
ARPUを正確に理解し、活用することで、より効果的な事業戦略を立てることが可能になります。
ARPUとは何か
ARPUは主にマーケティング分野で使用される英語のビジネス用語です。
このARPUとは、特定期間におけるサービス全体の総売上を、その期間の総ユーザー数で割ることで算出されます。
元々は通信キャリア業界で月額課金モデルの効果測定に広く使われてきた指標ですが、近年ではSaaSビジネスやスマートフォンアプリ、その他課金モデルを採用する様々なデジタルサービスでも、業績評価に不可欠な指標として注目されています。
ARPUは、顧客一人ひとりが企業にもたらす平均的な収益を可視化することで、事業の収益構造を把握し、今後の戦略立案に役立てることを目的としています。
また、ARPUは定期的に定点観測されることで、ユーザーの利用状況と売上の相関関係を分析し、中長期的な視点での経営判断に貢献します。
ARPUが重視される理由
ARPUが重視される主な理由は、市場の成熟飽和に伴い新規ユーザーの獲得が困難になっている現代のビジネス環境において、既存ユーザーからの利益を最大化する重要性が高まっているためです。
かつてはユーザー数の増加が事業成長の主な指標でしたが、市場が成熟すると新規獲得だけでは売上向上が難しくなります。このような状況下で、ARPUはユーザー1人あたりの平均売上を明確にするKPIとして機能し、より現実的なマーケティング戦略の立案を可能にします。
ARPUを向上させることは、顧客満足度の向上にもつながり、結果として安定した利益確保に貢献する重要な指標です。
特にSaaSビジネスにおいては、ARPUの推移をモニタリングすることで、価格戦略の最適化やアップセル施策の効果測定、事業の健全性を評価する上で不可欠な指標となっています。
ARPUの算出方法
ARPUの算出は、事業の収益性を測る上で非常に重要です。
基本的な計算方法に加え、ビジネスモデルごとの特性を考慮した計算式を用いることで、より精度の高い数値を把握し、事業戦略に活かすことができます。
基本的な計算方法
ARPUの基本的な計算方法は非常にシンプルで、「総売上高÷総ユーザー数」という計算式で求められます。
例えば、ある月にサービス全体の売上が500万円で、その月のユーザー数が10,000人だった場合、ARPUは500万円÷10,000人=500円となります。
この計算方法を用いることで、過去の売上高に対する平均収入を簡単に算出でき、大まかな傾向を把握することが可能です。
しかし、より詳細な分析や将来的なARPUの予測を行うためには、ビジネスモデルの特性に応じた計算式を適用することが重要になります。
ARPUを測定する期間は、企業が任意に設定でき、月次、四半期、年次など、分析の目的に合わせて調整することが可能です。
月次経常収益(MRR)をインプットとして使用し、毎月ARPUを計測するのが一般的で定期的なARPUの算出により、ユーザーあたりの平均収益の変化を捉え、具体的な経営判断につなげることが可能となります。
ビジネスモデルごとの計算式
ARPUの計算式は、ビジネスモデルの特性によって異なります。
それぞれのビジネスモデルに適した計算式を用いることで、より正確なARPUを把握し、収益改善に役立てられます。
利用課金型ビジネス
利用課金型ビジネス、特に携帯通信キャリアやゲームアプリなどでは、ARPUの計算式は「商品単価×平均購入点数×平均購入頻度×有料課金ユーザー率」となります。
携帯キャリアの場合、音声通話やデータ通信の利用量に応じて課金されるため、ユーザー全体の利用状況を総合的に把握することが重要です。
例えば、ゲームアプリにおいては、基本的なプレイは無料でも、アイテム課金などで収益を上げるモデルが一般的です。この場合、無課金ユーザーも総ユーザー数に含める点がARPUの特徴です。
利用課金型ビジネスでは、たとえサービス全体で課金しているユーザーが少数であっても、総ユーザー数で割ることで、無課金ユーザーを含めた全体の収益貢献度を把握することができます。
ただし、より詳細に課金ユーザーの動向を把握したい場合は、ARPPU(課金ユーザーあたりの平均売上)を用いることも有効です。
例えば、全ユーザーのうち40%が継続課金ユーザーで、その平均購入額が3,000円、購入頻度が1回、購入点数が1点の場合、ARPUは3,000円×1点×1回×40%=1,200円となります。
広告表示課金型ビジネス
広告表示課金型ビジネス、例えばYouTubeのようなプラットフォームや無料アプリなどでは、ユーザーが広告を視聴することで収益が発生します。
この場合のARPUの計算式は、「ユーザー1人あたりの広告表示平均回数×(CPM÷1,000)」で求められます。
ここで言うCPMとは、広告が1,000回表示された際の広告単価を指します。
例えば、ある無料アプリの月間総広告表示回数が1,000万回、総ユーザー数が2万人、CPMが100円の場合、まずユーザー1人あたりの広告表示平均回数は10,000,000回÷20,000人=500回となります。
そして、ARPUは500回×(100円÷1,000)=50円と計算できます。
このモデルでは、広告が表示される頻度や、広告の種類がユーザーごとに異なることがありますが、基本的にはすべてのユーザーに対して広告が配信されるため、利用課金型ビジネスのように課金・無課金を区別する必要はありません。
ARPUを向上させるためには、ユーザーあたりの広告表示回数を増やすことや、より単価の高い広告を配信することが戦略として考えられます。
クリック・インストール課金型ビジネス
クリック・インストール課金型ビジネスにおけるARPUの計算は、ユーザーが広告をクリックしたり、アプリをインストールしたりすることで収益が発生するモデルに適用されます。
この場合の広告収入に基づくARPUの計算式は、「CPC(Cost Per Click)×CTR(Click Through Rate)」または「CPI(Cost Per Install)×インストール率」のように表すことができます。
CPCは広告1クリックあたりに発生する売上高、CTRは広告のクリック率(総クリック数÷広告表示回数)です。CPIはアプリのインストール1件あたりに発生する収益、インストール率は総ユーザー数に対するインストール数の割合を示します。
例えば、ニュースアプリを運営しており、1日のユーザー数が70,000人、CPCが10円、広告表示回数が120万回でクリック数が24,000回の場合、CTRは24,000回÷1,200,000回=0.02(2%)となります。
この時のARPUは10円×0.02=0.2円と算出されます。
このモデルでは、いかにユーザーが広告に興味を持ち、クリックまたはインストールに至るかが収益の鍵となります。
そのため、広告の質や表示方法、ターゲティングの精度などがARPUに大きく影響します。
ARPAとARPPU、LTVの違い
ARPUと混同しやすい指標にARPPUとARPA、LTVがあります。
これらはそれぞれ異なる対象を基に算出されるため、それぞれの違いを理解することが重要です。
ARPAとの違い
ARPA(Average Revenue Per Account)は「1アカウントあたりの平均売上」を示す指標です。
ARPUが「1ユーザーあたり」の平均売上を算出するのに対し、ARPAは「1アカウントあたり」の平均売上を算出する点で異なります。
例えば、通信キャリアでは1人の契約者がスマートフォンとタブレットなど複数の端末を契約し、それぞれにアカウントを持つケースがあります。
この場合、ARPUでは端末ごとのユーザー数をカウントしますが、ARPAでは契約者というアカウント単位で売上を評価します。
SansanのようなBtoB SaaSビジネスでは、企業が複数のユーザーアカウントを持つことが一般的です。
このような環境では、ARPAを用いることで企業単位での顧客価値を把握し、戦略的な顧客管理や収益最適化を目指す上で役立つ重要な指標となります。
ARPAの計算式は「総売上高÷総アカウント数」です。
例えば、サービス全体で100万円の売上があり、100のアカウントが存在する場合、ARPAは10,000円となります。
ARPPUとの違い
ARPPU(Average Revenue per Paid User)は、「課金ユーザー一人あたりの平均売上」を示す指標です。
ARPUが無料ユーザーを含む「全ユーザー」を対象とするのに対し、ARPPUは文字通り「有料課金ユーザーのみ」を対象としています。この点がARPUとARPPUの決定的な違いです。
例えば、あるゲームアプリでユーザー数が1万人おり、そのうち50%が課金ユーザーだとします。
期間内の売上高が1,000万円の場合、ARPUは1,000万円÷1万人=1,000円となります。
一方、ARPPUは1,000万円÷(1万人×50%)=2,000円となります。
無料ユーザーがいくら増えてもARPPUは変化しません。
そのため、無料プランと有料プランの両方を提供しているサービスにおいて、課金ユーザーからの収益性をより詳細に分析したい場合にARPPUが有効な指標となります。
ARPPUを向上させる施策は、主に課金ユーザーの購入単価や購入頻度を高めることに焦点を当てます。
LTVとの違い
LTV(Life Time Value)は「顧客生涯価値」を示す指標です。
LTVは一人の顧客が、サービスや企業との取引を開始してから終了するまでの全期間にわたってもたらしてくれる利益の総額を表します。
ARPU(1ユーザーあたりの平均売上)が短期的な収益性を評価するのに対し、LTVは顧客を長期的な視点から捉え、その将来的な価値を評価する点で異なります。
LTVの計算式はビジネスモデルによっていくつかありますが、一般的には以下の2つの方法が用いられます。
一般的なビジネスでの計算式
LTV = 顧客の平均購入単価 × 購買頻度 × 継続期間
サブスクリプション型ビジネスでの計算式
LTV = ARPU ÷ チャーンレート(解約率)
LTVを把握することで、顧客獲得にかけるべき広告費の上限(CPA)を決めたり、既存顧客を維持するための施策がどれだけ効果的かを評価したりするなど、長期的な視点での経営戦略を立てる上で非常に重要な指標となります。
ARPUを向上させる施策
ARPUの向上は、事業の安定的な成長と利益拡大に直結する重要な経営課題です。
市場が飽和し新規顧客獲得が難しくなる中で、既存顧客からの収益を高めることは、持続可能なビジネスモデルを構築するために不可欠です。
以下に挙げる施策は、ARPUを総合的に改善するための具体的なアプローチであり、それぞれのビジネスモデルや顧客特性に合わせて柔軟に適用することが求められます。
顧客ロイヤルティの向上
顧客ロイヤルティの向上は、ARPUを向上させる上で非常に重要な施策です。
顧客ロイヤルティとは、顧客が特定の企業やブランドに対して抱く信頼や愛着のことであり、これが高まると顧客は継続的にサービスを利用し、結果として売上が高まります。
そのため顧客ロイヤルティが低い状態では、ユーザーは競合他社に流出しやすく、高い単価の商品やサービスの購入をためらう傾向があります。
顧客ロイヤルティを高めるためには、顧客がサービスを通じて得られる体験価値を最大化することが不可欠です。具体的には、パーソナライズされたサービスの提供、顧客サポートの充実、コミュニティ形成による顧客同士の交流促進、顧客の声に基づいた継続的なサービス改善などが挙げられます。
例えば、ユーザーの利用履歴や行動データを分析し、個別最適化されたコンテンツやプロモーションを提案することで、顧客は「自分に合ったサービス」と感じ、満足度が向上します。
また、トラブル発生時の迅速かつ丁寧な対応は、顧客の信頼感を高め、長期的な関係構築に寄与します。
顧客ロイヤルティが高まることで、顧客はより高単価のサービスへの移行や、関連商品の購入にも前向きになり、結果としてARPUの向上につながります。
購入頻度の向上
購入頻度の向上は、ARPUを効果的に高めるための重要な施策の一つです。
ユーザー一人あたりの平均売上は、購入頻度と一回あたりの購入金額の積で決まるため、購入頻度を高めることはARPUの直接的な改善につながります。
例えば、月1回しかサービスを利用しない顧客よりも、週に1回利用する顧客の方が、長期的に見てより多くの売上をもたらす可能性が高いと言えるでしょう。
この施策を成功させるためには、ユーザーがより頻繁に商品やサービスを利用したくなるような仕組みやインセンティブを提供することが重要です。
具体的には、定期的なリマインドメールやプッシュ通知の配信、期間限定の割引クーポンや限定商品の案内、購買履歴に基づいたパーソナライズされたおすすめ商品の提案などが有効です。
また、ロイヤルティプログラムを導入し、購入頻度に応じてポイントを付与したり、VIP特典を提供したりすることで、継続的な利用を促進することもできます。さらに、ユーザーがサービスを利用する際の障壁を低減し、より手軽に購入できるようなUI/UXの改善も、購入頻度向上に寄与します。
例えば、決済プロセスの簡素化や、ワンクリック購入機能の導入などが考えられます。
これらの施策を通じて、ユーザーの購買行動を活性化させ、結果としてARPUの向上を目指します。
課金ポイントの改善
課金ポイントの改善はARPU向上に直結する重要な施策の一つです。
この施策はユーザーがストレスなく、かつ価値を感じやすい形で課金できる仕組みを構築することを目指します。
具体的には課金導線の明確化、決済プロセスの簡素化、そしてユーザーにとって魅力的な課金コンテンツやプランの提供が挙げられます。例えば無料ユーザーが有料機能に興味を持った際にスムーズに課金ページに遷移できるようなUI設計は重要です。
また決済方法の多様化(クレジットカード、電子マネー、キャリア決済など)や購入ステップの簡略化は購入時のユーザーの離脱を低下させる効果があります。
さらにユーザーが「これならお金を払っても良い」と感じるような高品質なプレミアムコンテンツ、限定アイテム、広告非表示オプションなどを提供することで課金へのモチベーションを高めることができます。
価格設定の見直しもこの範疇に含まれ、例えば段階的な価格設定や利用量に応じた従量課金制の導入など様々なモデルを検討することでユーザーのニーズに合わせた選択肢を提供しARPUの改善につなげることが可能です。
ただし課金ポイントの改善はユーザー体験を損なわないよう慎重に行う必要があり、無理な課金誘導はかえってユーザーの離反を招く恐れがあるため注意が必要です。
無料ユーザーの有料化
無料ユーザーの有料化は、ARPUを向上させるための直接的な施策であり、特にフリーミアムモデルを採用しているサービスにとって極めて重要です。
この施策の目的は、無料でサービスを利用しているユーザーに対して、有料プランや課金コンテンツの魅力を伝え、実際に支払いへと誘導することにあります。
例えば、多くのソーシャルゲームでは、無料で基本的なプレイは可能ですが、キャラクターの強化アイテムや限定スキンなど、ゲームを有利に進めたり、より楽しんだりするための要素を有料で提供しています。
無料ユーザーを有料化するためには、無料版の利用において、有料版への明確なメリットを感じさせる設計が必要です。
具体的には、無料ユーザーが利用できる機能に制限を設け、その制限が有料版でどのように解消され、どのような価値が提供されるのかを明確に提示することが有効です。また、期間限定の無料トライアルや、初回限定の割引オファーなど、有料プランへの移行を促すプロモーションも効果的です。
ユーザーの利用状況や行動データを分析し、課金に至る可能性が高いユーザーを特定し、パーソナライズされたアプローチを行うことも重要です。
例えば、特定の機能を頻繁に利用している無料ユーザーに対して、その機能の拡張版が利用できる有料プランを提案するなど、ニーズに合わせた訴求が求められます。
アップセル・クロスセル
アップセルとクロスセルは、既存顧客からの収益を拡大し、ARPUを向上させるための効果的な施策です。
アップセルとは、顧客が現在利用している商品やサービスよりも、高機能・高価格な上位プランへの移行や、オプションの追加購入を促す手法を指します。
例えば、基本プランのユーザーに、より多くのストレージや高度な機能が含まれるプレミアムプランを提案するなどが挙げられます。
一方クロスセルとは、顧客が購入した、または購入を検討している商品やサービスに関連する別の商品を同時に購入してもらうことを促す手法です。
これは「セット販売」とも言え、例えば、スマートフォンを購入した顧客に、保護ケースやワイヤレスイヤホンなどのアクセサリーを提案するケースが該当します。
これらの施策を成功させるためには、顧客のニーズや利用状況を深く理解し、顧客にとって真に価値のある提案を行うことが不可欠です。
ユーザーの属性や購買履歴、利用データなどを活用し、パーソナライズされたレコメンデーションを行うことで、提案の成功率を高められます。
アップセルとクロスセルは、新規顧客獲得にかかるコストを抑えつつ、既存顧客からのLTV(顧客生涯価値)を拡大し、結果としてARPUの向上に貢献します。
まとめ
ARPU(Average Revenue Per User)とは、1ユーザーあたりの平均売上高を指す重要な指標です。
これは主にSaaSやサブスクリプションビジネスで重視され、新規ユーザー獲得が難しい現代において、既存ユーザーからの収益最大化に役立ちます。
ARPUの計算方法はビジネスモデルによって異なり、利用課金型、広告表示課金型、クリック・インストール課金型など、それぞれに適した計算式が適用されます。
また、ARPUと似た指標には、1アカウントあたりの平均売上を示すARPA、課金ユーザー一人あたりの平均売上を示すARPPU、顧客生涯価値を示すLTVがあります。
これらの指標とARPUは対象が異なるため、目的に応じて使い分けることが重要です。
ARPUを向上させるためには、顧客ロイヤルティの向上、購入頻度の向上、課金ポイントの改善、無料ユーザーの有料化、そしてアップセルやクロスセルといった施策が効果的です。