エンゲージメントについて、ビジネスシーンで使われる際の意味や定義をわかりやすく解説します。
エンゲージメントの本質は、企業と従業員、あるいは企業と顧客との間の深いつながりや信頼関係を指します。
この記事では、特に組織における従業員エンゲージメントに焦点を当て、その重要性や測定方法、具体的な向上施策について網羅的に説明します。
そもそもエンゲージメントとは?ビジネスシーンでの意味を解説
「エンゲージメント」という用語は、もともと「婚約」「契約」「約束」といった意味で使われます。
これがビジネスシーンに転用され、従業員や顧客との「深いつながり」「関与」「愛着」といった関係性を示す言葉として定着しました。
本記事では、このビジネス用語としてのエンゲージメントの内容について、従業員と顧客の2つの側面に分けて解説していきます。
組織への貢献意欲を示す「従業員エンゲージメント」
従業員エンゲージメントとは、社員が会社に対して抱く貢献意欲や、仕事そのものへの熱意を指す言葉です。
単に会社に帰属しているだけでなく、従業員一人ひとりが働きがいややりがいを感じ、自発的にワークへ取り組む状態を示します。
これは、企業のビジョンや目標に共感し、その成功のために自身の能力を最大限発揮したいというポジティブな心理状態です。
エンゲージメントが高い組織では、社員のウェルビーイングも向上し、個人と会社の成長が両立する好循環が生まれます。
この関係性は、個人の仕事に対するポジティブで充実した心理状態とも言えます。
顧客との信頼関係を表す「顧客エンゲージメント」
顧客エンゲージメントとは、主にマーケティングの分野で使われる用語で、企業やブランド、ショップと顧客との間の信頼関係や親密さを表します。
お客様が商品やサービスを一度購入するだけでなく、継続的に利用したり、他者に推奨したりする行動の背景にある心理的なつながりを指します。
現代のマーケティングでは、SNSやWebサイト、オンラインメディアでの関係構築が重要です。
例えば、Facebookでの「いいね」やクリック、ウェブサイトでの滞在時間(セッション)といったGAで計測できる指標も、顧客エンゲージメントを測る要素の一部です。
ソーシャルメディアやネット広告などを活用したオープンなコミュニケーションを通じて、顧客との長期的な関係を築くことが求められます。
エンゲージメントと混同されやすい言葉との違い
エンゲージメントは、「従業員満足度」や「ロイヤルティ」「コミットメント」「モラール」といった言葉と混同されやすい傾向にあります。
これらの概念は互いに関連していますが、焦点となる側面が異なります。
エンゲージメントとロイヤルティ、満足度などの違いを正しく理解することは、組織の状態を正確に把握し、適切な施策を講じる上で不可欠です。
「従業員満足度」は働きやすさの指標
従業員満足度は、給与や福利厚生、労働時間、職場の物理的な環境といった待遇面に対する従業員の満足度を示す指標です。
働きやすさや居心地の良さを測るものであり、従業員が会社から与えられるものに対してどう感じているかという受動的な側面が強いのが特徴です。
満足度が高い職場であっても、それが必ずしも業績への貢献意欲や主体的な行動につながるとは限りません。
一方で、エンゲージメントは企業のビジョンへの共感や仕事への熱意といった、より能動的で貢献意欲に直結する概念である点で大きく異なります。
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「ロイヤルティ」は企業への忠誠心を示す指標
ロイヤルティは、従業員が企業に対して抱く「忠誠心」を意味します。
企業の理念や方針に強く賛同し、組織に留まり続けたいという意思を示す指標です。
エンゲージメントと非常に近い概念ですが、ロイヤルティが従業員から企業へ向けられる忠誠心を指すのに対し、エンゲージメントは企業と従業員が対等なパートナーとして、互いの成長に貢献し合うという双方向の関係性を重視します。
この点が、個人の自律性が求められる現代の働き方において、エンゲージメントがより注目される理由の一つです。
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なぜ今エンゲージメントがビジネスで重要視されているのか
近年、多くの日本企業でエンゲージメントという概念が注目されています。
その背景には、労働市場の変化や働き方の多様化といった社会的な要因があります。
何のため、どのような目的でエンゲージメントが必要とされるのか、その必要性について、3つの観点から解説します。
人材の流動化が進み定着率の向上が課題になっているため
終身雇用が当たり前ではなくなり、転職によるキャリアアップが一般的になるなど、人材の流動化が進む傾向にあります。
このような状況下で企業が持続的に成長するためには、優秀な人材を惹きつけ、定着させることが不可欠です。
新たな人材の採用コストは高騰しており、既存の従業員が「この会社で働き続けたい」と思えるような魅力的な組織を作ることが重要な経営課題となっています。
従業員エンゲージメントの向上は、この人材定着率の改善に直接的な効果をもたらします。
働き方の多様化により個人の価値観が変化したため
リモートワークの普及やフレックスタイム制度の導入など、働き方が大きく多様化しました。
それに伴い、従業員が仕事に求める価値観も変化し、経済的な報酬だけでなく、仕事そのもののやりがい、自己成長の実感、社会への貢献といった非金銭的な価値を重視する人が増加しています。
企業は、こうした多様な価値観を持つ従業員一人ひとりのモチベーションを高め、組織への貢献意欲を引き出す必要があります。
エンゲージメントという概念は、この多様な価値観に応えるための指針となります。
企業の生産性や業績に直接影響するため
従業員エンゲージメントの高さは、企業の業績と相関関係があることが多くの調査で示されています。
エンゲージメントが高い従業員は、自らの仕事に誇りを持ち、主体的に業務改善や新たな挑戦に取り組みます。
こうした前向きな行動が、イノベーションの創出や顧客満足度の向上につながり、最終的には組織全体の生産性を高めるのです。
その成果は、企業の売上や利益、さらには株価といった形で表れることもあり、経営に与える影響は非常に大きいと言えます。
従業員エンゲージメントを高めることで企業が得られるメリット
従業員のエンゲージメントを高めることは、企業経営において多くのメリットをもたらします。
単に職場の雰囲気が良くなるだけでなく、生産性の向上や人材の定着など、事業の根幹に関わる具体的な効果が期待できます。
企業にとって、エンゲージメント向上への投資は、持続的な成長を実現するための重要な戦略となり得ます。
生産性が向上し企業の業績アップにつながる
エンゲージメントが高い従業員は、自身の役割や業務に対して強い責任感と情熱を持っています。
そのため、与えられた業務をこなすだけでなく、より良い成果を出すために自発的に工夫を凝らし、主体的に行動します。
例えば、営業担当者であれば顧客への提案の質が向上し、開発担当者であれば製品の品質改善に積極的に取り組みます。
こうした個々のパフォーマンスの向上が組織全体に波及し、生産性の向上、ひいては経営の安定と業績アップに直結します。
優秀な人材の離職率が低下し定着が促進される
エンゲージメントが高い従業員は、自身の仕事や所属する組織に満足し、強い愛着を感じています。
そのため、安易に転職を考えることが少なくなり、離職率の低下につながります。
特に、高いスキルや経験を持つ優秀な人材ほど、自己成長や貢献実感といったエンゲージメントに直結する要素を重視する傾向があります。
HR部門にとって、エンゲージメントの向上はリテンションマネジメントの観点から非常に重要であり、採用や育成にかかるコストの削減にも貢献します。
社員の主体性が生まれ組織全体が活性化する
エンゲージメントが高い組織では、従業員が「やらされ感」ではなく、当事者意識を持って仕事に取り組みます。
自分の意見やアイデアを積極的に発信するようになり、チーム内での建設的な議論が活発化します。
共有された企業のビジョンやストーリーに共感することで、従業員一人ひとりが自社の成長を自分のこととして捉えるようになります。
このような主体的な行動の積み重ねが、組織全体に活気をもたらし、変化に強いしなやかな組織文化を醸成するのです。
組織の現状を把握するエンゲージメントの測定方法
従業員エンゲージメントを効果的に向上させるためには、まず自社の現状を客観的に把握することが第一歩となります。
感覚的な判断に頼るのではなく、データを基にエンゲージメントのレベルを可視化し、スコアとして定量的に測定する必要があります。
現状を正確に把握することで、組織の強みや課題が明確になり、具体的な改善策へとつなげることが可能になります。
平均値との比較や、部署ごとの計算も有効です。
エンゲージメントサーベイで現状を数値化する
エンゲージメントサーベイとは、従業員のエンゲージメントレベルを測定するために実施されるアンケート調査を指します。
このサーベイでは、仕事内容、上司や同僚との人間関係、企業理念への共感度、人事評価制度への納得度など、エンゲージメントに影響を与える多様な要因について質問します。
回答結果を集計・分析することで、組織全体のエンゲージメントスコアや、部署・属性ごとの傾向を数値として把握できます。
定期的に実施すれば、施策の効果検証や組織状態の定点観測も可能になります。
サーベイで活用される3つの主要な指標
エンゲージメントサーベイでは、エンゲージメントの状態を多角的に捉えるために、複数の指標を組み合わせたモデルが用いられることが一般的です。
その中でも代表的な指標として、3つの要素が挙げられます。
- 自社を他者に推奨したい度合いを測る「eNPS」
- 仕事への熱意や没頭度合いを測る「ワークエンゲージメント」
- それらに影響を与える職場環境や制度などを測る「組織ドライバー」
です。
例えば、「現在の職場を友人にどの程度勧めたいか」を0から10点で評価してもらうといった質問項目がその一例であり、これらの指標を総合的に分析します。
従業員エンゲージメントを高めるための具体的な5つの取り組み
従業員エンゲージメントを高めるためには、組織の現状分析に基づいた戦略的なアプローチが不可欠です。
ここでは、エンゲージメント向上に有効とされる具体的な5つの取り組みを解説します。
これらの企画は、人事制度の改定から日々のコミュニケーションまで多岐にわたります。
近年では、これらの施策を効率的に進めるためのITツールやクラウドなどのソリューションも登場しています。
企業のビジョンや経営方針を全社で共有する
従業員が自社の進むべき方向性を理解し、共感することはエンゲージメントの土台となります。
経営層は、企業のビジョンや中期的な経営方針を、従業員に分かりやすい言葉で繰り返し伝える必要があります。
全社会議や社内報などを通じて発信するだけでなく、各部署の目標がビジョンとどう連動しているかを具体的に示すことが重要です。
部署単位での対話の機会を設け、ビジョンを自分事として捉えられるようなテーマで話し合うことも、共感を深める上で効果的です。
従業員の自律的な成長を支援する教育・研修制度を整える
従業員が仕事を通じて成長を実感できる環境は、エンゲージメントを大きく左右します。
企業は、階層別研修やスキルアップセミナーといった教育機会を提供するだけでなく、従業員一人ひとりがキャリアプランを描き、自律的に学習を進められるような支援制度を整えることが求められます。
資格取得支援制度や書籍購入費の補助、キャリアコンサルタントによる面談機会の提供などが有効です。
従業員の成長への投資は、企業が個人を大切にしているという強いメッセージとなります。
公正で透明性の高い人事評価制度を構築する
従業員が自分の働きや貢献が正当に評価されていると感じることは、仕事へのモチベーションを維持する上で欠かせません。
そのためには、評価基準が明確であり、評価プロセスが客観的で透明性の高い人事制度を構築する必要があります。
目標設定や評価面談の場では、上司から具体的なフィードバックを行い、本人が結果に納得できるような丁寧なコミュニケーションが求められます。
評価と報酬、昇進が公平に連動しているという信頼感が、組織へのエンゲージメントを高めます。
心理的安全性の高い職場環境を整備する
心理的安全性とは、チームの誰もが自分の意見や考えを安心して発言できる状態のことです。
このような職場環境では、従業員は失敗を恐れずに新しい挑戦をしたり、率直な質問や提案をしたりできます。
結果として、多様な視点からのアイデアが生まれ、イノベーションが促進されます。
上司が部下の意見に耳を傾け、ミスを責めるのではなく成長の機会と捉える文化を醸成することが、心理的安全性の確保につながります。
風通しの良い人間関係が、エンゲージメントの基盤を支えます。
社内コミュニケーションを活性化させる仕組みを作る
部署や役職の垣根を越えた活発なコミュニケーションは、組織の一体感を高め、従業員の孤立を防ぎます。
上司と部下の信頼関係を構築するために、定期的な1on1ミーティングを制度として導入する企業が増えています。
また、社内SNSやチャットツールを活用して情報共有を円滑にしたり、部署横断型のプロジェクトを立ち上げたりすることも有効です。
意図的にコミュニケーションの機会を創出する仕組み作りが、組織全体のエンゲージメント向上に貢献します。
エンゲージメントが向上しない時に考えられる原因
エンゲージメント向上のために様々な施策を講じているにもかかわらず、サーベイのスコアが改善しない、あるいは職場の雰囲気が変わらないといった問題に直面することがあります。
その背景には、施策が的を射ていない、もしくはより根深い要因が潜んでいる可能性があります。
ここでは、エンゲージメント向上を阻むネガティブな原因について考察します。
経営層と従業員の間で認識にズレが生じている
経営層がエンゲージメントを重要視していても、その目的や意図が従業員まで正しく伝わっていない場合があります。
例えば、経営層は「生産性向上」を主目的としているのに対し、従業員は「働きやすさの改善」を期待しているなど、エンゲージメントを高めることに対する認識にズレが生じていると、施策が従業員の心に響きません。
ビジョンや施策の背景を丁寧に説明し、従業員の意見や不満に真摯に耳を傾け、双方の期待をすり合わせるプロセスが不可欠です。
マネジメント層の育成が不足している
日々の業務において、従業員のエンゲージメントに最も大きな影響を与えるのは直属の上司、すなわちマネジメント層です。
しかし、管理職自身が部下のエンゲージメントを高めるためのスキルや知識を十分に持っていないケースは少なくありません。
適切な目標設定、権限移譲、コーチング、フィードバックといったマネジメント能力を向上させるための研修や育成体系が整備されていなければ、全社的な施策も現場レベルで形骸化してしまいます。
業務負荷が過剰で心身の余裕がない
恒常的な長時間労働や、一人ひとりのキャパシティを超える過剰な業務負荷は、従業員の心身を疲弊させます。
日々の業務に追われ、精神的な余裕がない状態では、仕事へのやりがいや会社への貢献意欲を見出すことは困難です。
特に、人手不足が深刻な医療や福祉などの業界ではこの問題が顕著です。
エンゲージメント向上を目的とした新たな施策を導入する前に、まずは従業員の健康を守り、業務量を適正化するといった、基本的な労働環境の整備が最優先されるべきです。
まとめ
エンゲージメントは、従業員の貢献意欲と企業の成長を結びつける重要な経営指標です。
その定義は、従業員と企業が対等な立場で互いに貢献し合う、信頼に基づいた関係性を指します。
エンゲージメントの向上は、生産性の向上、離職率の低下、組織の活性化といった具体的なメリットをもたらし、変化の激しい時代における企業の競争力を支えます。
向上させるためには、まずサーベイなどで現状を正確に把握し、ビジョンの共有、公正な人事評価、成長機会の提供、良好なコミュニケーションといった多角的なアプローチを、組織全体で継続的に実践していく必要があります。



