RFM分析とは、顧客の購買データを3つの指標で評価し、顧客をグループ分けする分析手法です。
この分析とは、顧客一人ひとりの価値を可視化し、それぞれに最適なマーケティングアプローチを行うために用いられます。
RFM分析を正しく理解し活用することで、顧客との良好な関係を築き、ビジネスの成長を促進できます。
本記事では、RFM分析の基礎知識から具体的な分析手順、施策への活用例までを解説します。
RFM分析とは顧客の購買行動にもとづくデータ分析手法のこと
RFM分析とは、顧客の購買行動を分析するためのフレームワークであり、Recency(最新購買日)、Frequency(購買頻度)、Monetary(累計購買金額)という3つの指標の頭文字をとった略称です。
この分析手法の目的は、すべての顧客を同じように扱うのではなく、購買行動のデータにもとづいて顧客を複数のグループに分類することにあります。
RFM分析において、各顧客をスコアリングし、その結果から優良顧客や離反予備軍などを特定し、それぞれのセグメントに合わせた効果的なマーケティング施策を展開します。
R(Recency):直近の購入日
Recencyは、顧客が最後にいつ購入したかを示す指標です。
最後に購入してからの期間が短いほど、その顧客は自社の製品やサービスに対する関心が高い状態にあると判断できます。
例えば、1週間前に購入した顧客と1年前に購入した顧客とでは、前者の方が再度購入に至る可能性が高いと予測されます。
この指標を分析することで、顧客の活動状況を把握し、特に購入から時間が経過してしまった休眠顧客や離反の可能性がある顧客を特定して、再アプローチをかけるなどの対策を講じることが可能になります。
F(Frequency):購入した頻度
Frequencyは、顧客が特定の期間内にどれくらいの頻度で購入したかを示す指標です。
この数値が高いほど、顧客が自社の製品やサービスを繰り返し利用していることを意味し、ロイヤルティの高い顧客であると評価できます。
例えば、月に数回購入する顧客は、数ヶ月に一度しか購入しない顧客よりも、企業への貢献度が高いと判断されるでしょう。
購入頻度を分析することで、リピート率の高い顧客層を特定し、彼らが好む製品の傾向を把握したり、継続的な関係を維持するための施策を検討したりする材料となります。
M(Monetary):購入した合計金額
Monetary(マネタリー)は、顧客が特定の期間内に購入した合計金額を示す指標です。
この数値が高い顧客は、企業の売上に直接的に大きく貢献している「優良顧客」と判断できます。
購入金額は、顧客が企業にもたらす経済的な価値を最も直接的に示す指標といえるでしょう。
この指標を分析することで、高額な商品を購入する傾向のある顧客層や、一度の購入で多くの金額を使う顧客の特性を把握することが可能です。
これにより、アップセルやクロスセルの施策を検討する際の重要な判断材料として活用できます。
RFM分析がマーケティングで重要視される3つの理由
RFM分析は、顧客データに基づいた客観的なアプローチを可能にするため、現代のマーケティングにおいて非常に重要視されています。
この分析手法を活用するメリットは、顧客の購買行動を深く理解し、それぞれの顧客グループに最適化されたコミュニケーションを実現できる点にあります。
結果として、マーケティング活動の費用対効果を高め、顧客との長期的な関係構築を促進します。
具体的なメリットとして、以下の3点が挙げられます。
優良顧客を可視化して特別なアプローチができる
RFM分析を行うことで、企業の収益に最も貢献している優良顧客が誰であるかを明確に可視化できます。
Recency(最新購買日)、Frequency(購買頻度)、Monetary(累計購買金額)の3つの指標すべてにおいてスコアが高い顧客は、企業にとって非常に価値のある存在です。
これらの優良顧客を特定しリスト化することで、彼らに対して限定セールや新商品の先行案内、特別なクーポンの提供といった特別なアプローチを実施できます。
これにより、顧客満足度とロイヤルティをさらに高め、長期的なファンとして関係を維持することが可能になります。
離反しそうな顧客を早期に発見できる
RFM分析は、かつては頻繁に高額な購入をしていたにもかかわらず、最近の購入が途絶えている顧客、つまり「離反予備軍」を早期に発見するのに役立ちます。
具体的には、Frequency(購買頻度)やMonetary(累計購買金額)のスコアは高いものの、Recency(最新購買日)のスコアが低い顧客がこれに該当します。
このような顧客を放置すると、完全に離反してしまう可能性があります。
早期にこの兆候を捉え、特別な割引クーポンの送付や、興味を持ちそうな新商品の情報を案内するなど、再度の利用を促す働きかけを行うことで、顧客離れを未然に防ぎます。
顧客グループに応じた効果的な施策を打ち出せる
RFM分析の大きな利点は、全顧客に画一的なアプローチをするのではなく、顧客を購買行動に基づいて複数のセグメントに分類できる点です。
例えば、「最近購入を始めた新規顧客」「安定して利用してくれる常連客」「しばらく購入のない休眠顧客」など、異なる特性を持つグループを定義できます。
それぞれのセグメントのニーズや行動パターンを理解することで、各グループに響くメッセージやオファーを届けることが可能となり、マーケティング施策の精度と効果を大幅に向上させられます。
これにより、無駄なコストを削減し、ROI(投資収益率)の改善が期待できます。
RFM分析を実践するための具体的な4ステップ
RFM分析は、特別なツールがなくても基本的なデータがあれば実践できる分析方法です。
顧客の購買データを活用し、段階的に分析を進めることで、顧客構造を可視化し、具体的なマーケティング施策へとつなげることが可能になります。
この分析方法はいくつかのステップで構成されており、順を追って進めることで、顧客分析を行うことができます。
ここでは、その具体的な分析の手順と方法について解説します。
ステップ1:顧客の購買データを準備する
RFM分析を始めるにあたり、最初に行うべきは顧客の購買データを準備することです。
具体的には、「誰が(顧客ID)」「いつ(最終購入日)」「何回(購入回数)」「いくら(購入金額)」の情報が必要になります。
これらのデータは、CRM(顧客関係管理)システムやECサイトの購買履歴データベースから抽出するのが一般的です。
分析の対象とする期間を設定することも重要で、例えば過去1年間や過去90日間など、ビジネスの特性に合わせて期間を区切ります。
正確なデータを準備することが、分析の精度を高めるための第一歩となります。
ステップ2:R・F・Mの3指標をそれぞれランク付けする
次に、準備したデータをもとに、顧客一人ひとりに対してR・F・Mの3つの指標を算出します。
Rは分析実施日からの経過日数が少ないほど高く、FとMは数値が大きいほど高くなります。
算出した数値をそのまま使うのではなく、顧客全体をいくつかの階級に分けてランク付けするのが一般的です。
例えば、各指標の数値を大きい順に並べ、上位20%を「5」、次の20%を「4」というように5段階でスコアリングします。
この方法は、デシル分析のように顧客を10等分してランク付けするなど、分析の目的に応じて調整することも可能です。
ステップ3:ランクの組み合わせで顧客をグループ分けする
各顧客のRFMスコアをランク付けした後は、そのスコアの組み合わせによって顧客をグループ分けします。
例えば、RFMのスコアがすべて「5」の顧客は「優良顧客」、すべて「1」の顧客は「離反顧客」と定義できます。
同様に、「Rのスコアは高いがFMは低い顧客」は「新規顧客」、「Rは低いがFMは高かった顧客」は「離反懸念顧客」といった具合に、スコアのパターンから顧客の特性を読み取り、複数のセグメントを作成します。
この際、スコアの組み合わせと顧客グループの定義を一覧の表にまとめると、全体像を把握しやすくなります。
ステップ4:各グループの特性を分析し施策を検討する
顧客をグループ分けした後は、それぞれのグループがどのような特性を持っているかを分析し、具体的なマーケティング施策を検討します。
例えば、優良顧客グループにはロイヤルティをさらに高めるための特別プログラムを、休眠顧客グループには再購入を促すための割引クーポンを提供するといったアプローチが考えられます。
分析にはExcelなどの表計算ソフトが利用できますが、TableauのようなBIツールを活用すると、データの可視化や分析がより高度かつ効率的に行え、施策立案の精度を高めることが可能です。
RFM分析の結果を活用した顧客グループ別アプローチ例
RFM分析の価値は、分析して終わりではなく、その結果を具体的なマーケティング施策に活かすことで発揮されます。
顧客を購買行動に基づいてグループ分けすることで、各グループの特性やニーズに合わせた、きめ細やかなアプローチが可能になります。
画一的なコミュニケーションではなく、顧客一人ひとりの状況に応じた施策を展開することで、顧客満足度の向上と売上の最大化が期待できます。
ここでは、代表的な顧客グループごとのアプローチ例を紹介します。
優良顧客:ロイヤルティを高める限定的な特典を提供する
RFMの全てのスコアが高い「優良顧客」は、ビジネスの根幹を支える最も重要な層です。
このグループに対しては、感謝の意を伝え、今後も継続して利用してもらうための対策が不可欠です。
具体的なアプローチとしては、一般の顧客には提供しない限定商品の先行販売や、特別なイベントへの招待、専任のカスタマーサポートといった特別感のある特典が有効です。
こうした施策を通じて、顧客ロイヤルティをさらに高め、ブランドの強力なファンとして長期的な関係を築くことを目指します。
安定顧客:関連商品をおすすめして購入単価の向上を狙う
Recency(最新購買日)とFrequency(購買頻度)のスコアは高いものの、Monetary(累計購買金額)が伸び悩んでいる「安定顧客」は、アップセルやクロスセルのポテンシャルを秘めています。
この層は定期的に購入してくれるため、購買履歴を分析し、購入した商品と関連性の高い商品や、より上位のモデルをおすすめするアプローチが効果的です。
例えば、カメラを購入した顧客に交換レンズを提案したり、化粧水を購入した顧客に同じラインの美容液を勧めたりすることで、一人当たりの購入単価を引き上げ、優良顧客へと育成することを目指します。
新規顧客:リピート購入を促すためのフォローアップを行う
Recency(最新購買日)のスコアは高いものの、Frequency(購買頻度)とMonetary(累計購買金額)が低い「新規顧客」は、将来の優良顧客候補です。
このグループに対して最も重要なのは、2回目以降の購入を促し、リピーターへと育成することです。
初回の購入後に感謝を伝えるサンキューメールを送ったり、次回使える限定クーポンを提供したりするフォローアップが効果的です。
商品の使い方ガイドや活用事例を紹介するなど、購入後の体験価値を高める情報提供も継続的な関係構築につながります。
ABC分析などを併用し、購入商品ごとのアプローチを考えることも有効です。
休眠顧客:再訪のきっかけとなるクーポンや情報を提供する
過去には購入履歴があるものの、Recency(最新購買日)のスコアが著しく低い「休眠顧客」は、何らかの理由でブランドから離れてしまった層です。
このグループに対しては、再び興味関心を持ってもらうための「きっかけ作り」が重要となります。
例えば、「お久しぶりです」といったメッセージと共に、期間限定の大幅な割引クーポンを送付したり、彼らが過去に購入した商品に関連する新製品やキャンペーン情報を案内したりする施策が考えられます。
忘れられていたブランドを思い出してもらい、サイトへの再訪と再購入を促します。
RFM分析を導入する前に知っておきたい注意点
RFM分析は多くのビジネスで有効な顧客分析手法ですが、万能ではありません。
その特性や限界を理解せずに導入すると、分析結果を誤って解釈したり、期待した効果が得られなかったりする可能性があります。
この分析手法がどのようなビジネスモデルや商材に向いていないのか、また、どのような視点が欠けているのかを事前に把握しておくことで、他の分析手法と組み合わせるなど、より多角的で精度の高い顧客分析が可能になります。
購入金額に差が出にくい商材には向いていない
RFM分析は、3つの指標のうちM(Monetary:購入金額)が有効に機能しないビジネスモデルでは、効果が限定的になる場合があります。
例えば、月額料金が固定されているサブスクリプションサービスや、販売している商品の価格帯がほぼ均一な場合、顧客ごとの購入金額に差がつきにくくなります。
これにより、Monetaryの指標で顧客を評価することが難しくなり、分析の精度が低下する可能性があります。
このようなケースでは、RF分析(RecencyとFrequencyのみ)に切り替えるか、購入商品カテゴリの多様性など、別の指標を追加して分析する必要があります。
長期的な顧客育成の視点では評価できない部分がある
RFM分析は、あくまで過去の購買行動に基づいた分析手法であるため、顧客の将来的なポテンシャルを直接評価することはできません。
例えば、現在は購入頻度や金額が低くても、ライフステージの変化などによって将来的に優良顧客になる可能性を秘めた顧客も存在します。
しかし、RFM分析だけではこうした顧客を「評価の低い顧客」と判断してしまい、アプローチの対象から外してしまうリスクがあります。
顧客の年齢や興味関心といった属性データや、Webサイトの閲覧履歴などの行動データも組み合わせることで、より長期的で多角的な視点を持つことが求められます。
まとめ
RFM分析は、Recency・Frequency・Monetaryという3つの指標を用いて顧客をグループ分けし、それぞれの特性に合わせたマーケティング施策を展開するための有効な分析手法です。
優良顧客の可視化や離反予備軍の早期発見など、多くのメリットがあります。
分析はデータの準備、ランク付け、グループ分け、施策検討というステップで進められます。
ただし、商材によっては有効に機能しなかったり、長期的な視点が欠けたりする注意点も存在します。
これらの特性を理解し、他の分析手法と組み合わせることで、より精度の高い顧客分析と効果的なマーケティング活動が実現します。
