アンケート調査を実施する際、結果の信頼性を確保するためには「バイアス」への理解が欠かせません。
バイアスとは、調査結果に生じる「偏り」のことであり、これが存在すると回答が実態からかけ離れてしまう可能性があります。
この記事では、アンケート調査で注意すべきバイアスの種類とは何か、具体的な質問例、そして回答の偏りを防ぐための対策について解説します。
アンケートにおけるバイアスとは回答に偏りが生じること
アンケートにおけるバイアスとは、調査の設計や実施過程、回答者の心理的要因などによって、回答に偏りが生じてしまう現象を指します。
この偏りによって得られたデータは、調査対象である集団全体の意見や実態を正確に反映しているとはいえません。
例えば、特定の意見を持つ人ばかりが回答してしまったり、質問の聞き方によってある特定の答えに誘導されたりするケースが該当します。
バイアスは意図せず入り込むことが多く、調査結果の客観性を損なう原因となるため、その存在をあらかじめ認識し、対策を講じることが調査の品質を左右します。
バイアスが調査結果の信頼性を低下させる理由
バイアスのかかった調査結果は、対象となる集団の真の姿を映し出さないため、そのデータに基づいて行われる意思決定に誤りをもたらす危険性があります。
例えば、商品開発のためのアンケートで肯定的な意見に偏った結果が出れば、市場の需要を過大評価してしまいかねません。
調査結果は、統計的な分析を通じて客観的な事実を導き出すための根拠となるべきものです。
しかし、バイアスが含まれることでその前提が崩れ、データとしての価値が著しく低下し、調査そのものの信頼性が失われてしまいます。
アンケート調査で注意すべきバイアスの種類
アンケート調査では、結果に影響を与える可能性のある様々な種類のバイアスが存在します。
これらを事前に理解しておくことで、調査設計の段階から対策を講じることが可能です。
代表的なものには、
- 回答者の選び方に起因する「サンプリングバイアス」
- 回答内容が本心と異なる「回答バイアス」
- 回答しない層によって生じる「無回答バイアス」
- 調査員の態度が影響する「インタビュアーバイアス」
などが挙げられます。
それぞれのバイアスがどのように発生するのかを知ることが、偏りのないデータ収集への第一歩です。
【回答者選定の偏り】サンプリングバイアス
サンプリングバイアスは、調査対象となる母集団から、回答者となるサンプルを偏った方法で選択してしまうことで発生します。
例えば、平日の日中に駅前でアンケートを実施した場合、主婦や高齢者の意見は集めやすい一方で、会社員の意見は得にくくなります。
その結果、調査対象全体の縮図とはいえない、偏った属性の回答者からのデータが集まってしまいます。
このような偏りを避けるためには、調査対象の構成比を考慮し、年齢や性別、地域などが偏らないように無作為にサンプルを選択する方法が求められます。
【回答内容の偏り】回答バイアス
回答バイアスは、回答者が本心とは異なる回答をしてしまうことで生じる偏りの総称です。
これには、質問者の意図を忖度して答えたり、社会的に望ましいとされる建前の回答をしたりする「社会的望ましさバイアス」などが含まれます。
また、選択肢リストの最初や最後にある項目を選びやすい傾向(順序効果)もこの一種です。
回答バイアスは、質問の仕方や回答者の心理状態によって引き起こされるため、設問を中立的に作成したり、匿名性を確保したりする工夫によって影響を軽減する必要があります。
【回答しないことによる偏り】無回答バイアス
アンケート調査において、回答した人と回答しなかった人の間に意見や属性の違いがある場合、無回答バイアスが発生します。
例えば、あるサービスについて、強い不満を持つ人や非常に満足している人だけが回答し、大多数を占める「どちらでもない」層が回答しなかった場合、結果は両極端な意見に偏ってしまいます。
回答が得られなかった層の意見が反映されないため、全体の傾向を見誤る原因となります。
回答しないという行為そのものもバイアスを生む要因であり、回答率の低さはこのバイアスのリスクを高めます。
【調査員の態度による偏り】インタビュアーバイアス
インタビュアーバイアスは、対面調査や電話調査のように、調査員が介在する場合に発生する偏りです。
調査員の服装や話し方、表情、声のトーン、質問を読み上げる際の強調の仕方などが、回答者の回答内容に意図せず影響を与えてしまうことがあります。
例えば、調査員が特定の回答を期待しているような素振りを見せると、回答者はそれに迎合した答えを返してしまうかもしれません。
このバイアスを防ぐには、調査員に対する十分なトレーニングを実施し、全ての対象者に対して中立的かつ標準化された手順で調査を行うことが重要です。
回答を歪ませるバイアスのかかった質問例
アンケートのバイアスは、不適切な質問の作り方によって引き起こされることが少なくありません。
特定の回答を促すような聞き方や、回答者を混乱させるような設問は、データの信頼性を著しく損ねます。
ここでは、バイアスを生じさせやすい代表的な悪い質問の例をいくつか紹介します。
これらのパターンを避けることで、より客観的で正確な回答を引き出すことが可能になります。
自身の作成した質問がこれらの例に当てはまっていないか、確認してみてください。
特定の回答へ誘導してしまう質問
質問文の中に、作り手の意見や肯定的な、あるいは否定的なニュアンスを含めることで、回答者を特定の方向へ誘導してしまうことがあります。
例えば、「多くの専門家から支持されているこの新機能について、どう思いますか?」という質問は、肯定的な回答を暗に促しています。
これでは、回答者は「支持されているものだから、良いと答えるべきだろう」という心理的な圧力を感じかねません。
質問はあくまで中立的な立場から、事実を問う形にするべきです。
誘導を防ぐには「この新機能について、どう思いますか?」のように、評価を予断させる表現を排除します。
複数の論点を含んでしまう質問
「この製品のデザインと機能に満足していますか?」のように、一つの質問文の中に二つ以上の論点を含めてしまうと、回答者はどちらに対して答えればよいか分からなくなります。
これは「ダブルバーレル質問」と呼ばれ、正確な回答を得る妨げとなります。
デザインには満足しているが機能には不満がある場合、肯定も否定もできず、回答に窮してしまいます。
このような質問は避け、「製品のデザインに満足していますか?」と「製品の機能に満足していますか?」のように、論点ごとに質問を分割することが必要です。
「いつも」「必ず」など断定的な言葉を使った質問
あなたはいつも朝食を食べますか?というような断定的極端な言葉を含む質問は実態を正確に捉えることを難しくします。
ほとんどの人は、いつもや全くないといった両極端には当てはまらないため、多くの回答者がいいえと答えざるを得なくなり、たまに食べる人の実態が反映されません。
このような場合は「朝食を食べる頻度はどのくらいですか?」と問い頻度で答える選択肢週に5日以上週に3〜4日などを設けることでより現実に即したデータを収集できます。
断定的な質問は回答の選択肢を不必要に狭めてしまいます。
解釈が分かれる曖昧な言葉を使った質問
質問文に用いる言葉が曖昧で、回答者によって解釈が異なってしまうと、得られるデータの信頼性が揺らぎます。
「最近、運動をしましたか?」という質問では、「最近」が指す期間(昨日なのか、この1週間なのか)や、「運動」が指す範囲(散歩は含むのか、本格的なスポーツだけか)が人それぞれです。
これでは回答を正しく比較・分析できません。
質問を作成する際は、誰が読んでも同じ意味に捉えられるよう、「この1週間に、30分以上の汗をかく運動を何回しましたか?」のように、具体的で明確な言葉を選ぶことが不可欠です。
本音を隠してしまう社会的望ましさを意識させる質問
法令を遵守することは重要だと思いますか?や定期的に健康診断を受けていますか?といった質問は、社会的に望ましいとされる回答が存在します。
多くの人は、たとえ本心ではそうでなくても、世間体を気にして肯定的な回答を選んでしまう傾向があります。
これは社会的望ましさバイアスと呼ばれ、特に規範や倫理観、健康行動などに関するテーマで顕著に現れます。
このようなバイアスを避けるためには、アンケートの匿名性を確保し、回答が他者に知られることはない旨を明確に伝えることで、回答者が本音で答えやすい環境を整える工夫が求められます。
アンケートのバイアスを最小限に抑えるための対策
これまで見てきた様々なバイアスは、調査の信頼性を損なう要因ですが、適切な対策を講じることでその影響を最小限に抑えることが可能です。
対策は、質問の作り方から選択肢の設定、調査全体の設計に至るまで多岐にわたります。
特に、場所や時間の制約が少ないwebアンケートなどでも、これらの基本的な対策は同様に重要となります。
ここでは、バイアスを回避し、より精度の高いデータを収集するための具体的な方法を解説します。
設問は中立的で分かりやすい言葉を選ぶ
バイアスを減らす基本は、設問を中立的かつ分かりやすく作成することです。
特定の回答を示唆するような誘導的な表現(例:「〜だと思いませんか?」)や、感情に訴えかける言葉を避け、客観的な事実を問う質問を心がけます。
また、専門用語や業界用語、多義的な言葉の使用は避け、誰が読んでも同じように解釈できる平易な言葉を選びます。
質問を作成した後は、可能であれば調査対象者に近い属性の第三者に読んでもらい、意図が正確に伝わるか、曖昧な点がないかを確認するプロセスを経ることで、設問の質を高めることができます。
回答の選択肢は網羅的かつ重複しないように設定する
選択肢式の質問では、その設計が回答の質を大きく左右します。
まず、回答者が選びうる可能性を全てカバーしている「網羅性」が求められます。
当てはまる選択肢がない場合、回答者は回答をやめてしまったり、最も近い不正確な選択肢を選んだりするかもしれません。
これを防ぐために「その他(自由記述)」や「当てはまるものはない」といった項目を設けるのが有効です。
同時に、各選択肢の意味が互いに重複しない「排他性」も確保します。
これにより、回答者は迷うことなく一つの選択肢を選べるようになります。
質問の順番が回答に与える影響を考慮する
質問が並んでいる順番も回答に影響を与えることがあります。
これは「オーダー効果」と呼ばれ、前の質問への回答が、後の質問への回答に心理的な影響を及ぼす現象です。
例えば、あるサービスの具体的な不満点について聞いた直後に、そのサービスの総合満足度を尋ねると、評価が低くなる傾向があります。
これを避けるためには、まず全体的な質問から始め、徐々に個別・具体的な質問に移るのが基本です。
また、回答者によって質問のブロックの順番をランダム化する機能を使えば、順番によるバイアスの影響を統計的に軽減できます。
回答者のプライバシーに配慮した設計にする
回答者が安心して正直に答えられる環境を作ることは、質の高いデータを得るために不可欠です。
特に、収入、政治的信条、健康状態といった個人的でデリケートなテーマを扱う際は、回答者のプライバシー保護への配慮が求められます。
調査の冒頭で、回答が統計的にのみ利用されることや、個人が特定されることはないという匿名性の保証を明確に伝えるべきです。
回答者が「こんなことを答えても大丈夫だろうか」という不安を感じると、正直な回答をためらったり、無回答を選んだりする原因となり、結果としてデータに偏りが生じてしまいます。
まとめ
アンケート調査におけるバイアスとは、回答結果に生じる偏りであり、調査データの信頼性と客観性を損なう要因です。
バイアスには、回答者の選び方が偏るサンプリングバイアスや、回答内容が本心とずれる回答バイアスなど、様々な種類が存在します。
こうしたバイアスの発生は、誘導的な質問や曖昧な言葉遣い、不適切な質問順序など、調査設計の不備によって助長されることが少なくありません。
バイアスの影響を最小限に抑えるには、設問を中立的かつ平易な言葉で作成し、選択肢を網羅的・排他的に設定するなど、慎重な設計が求められます。
調査の目的を達成するためには、バイアスの存在を常に念頭に置き、客観的なデータ収集に努める姿勢が不可欠です。