CX(カスタマーエクスペリエンス)とは、日本語で「顧客体験」または「顧客体験価値」を意味します。
顧客が商品を認知してから購入し、利用後のサポートを受けるまでの一連のプロセスで得られる体験の総体を指し、現代のマーケティングにおいてその向上は極めて重要です。
この記事では、CXの基本的な意味から、具体的な向上施策、企業の成功事例までを解説し、顧客との良好な関係を築くためのヒントを提供します。
CX(カスタマーエクスペリエンス)の基本的な意味
CX(カスタマーエクスペリエンス)の基本的な意味は、顧客が商品やサービスに関して企業と接点を持つすべての体験を指します。
「CustomerExperience」の略であり、日本語では「顧客体験」や「顧客体験価値」と訳されます。
この体験には、広告を見て商品を知る段階から、店舗やウェブサイトでの情報収集、購入、利用、そしてアフターサポートに至るまでの全行程が含まれます。
単なる機能的な価値だけでなく、嬉しい、楽しいといった感情的な価値も含む包括的な概念がCXの定義です。
なぜ今、CX(カスタマーエクスペリエンス)が重要視されるのか
CXの重要性は、近年の市場環境の変化と顧客の価値観の多様化を背景に、経営戦略上の重要なテーマとして認識されています。
単に良い製品を作るだけでは生き残りが難しい時代となり、顧客との長期的な関係構築が企業の成長に不可欠になりました。
経済産業省がデジタルトランスフォーメーション(DX)の一環としてCXの重要性に言及するなど、国レベルでも最新の経営課題として注目を集めています。
商品やサービスの機能だけでは差別化が難しくなったため
現代の市場では技術が成熟し、多くの業界で商品やサービスの機能・品質・価格といった物理的な価値だけでは、他社との明確な差別化を図ることが困難になっています。
このようなコモディティ化が進む状況において、顧客は製品そのものだけでなく、購入プロセスや利用時に得られる付加価値を重視するようになりました。
優れた顧客体験を提供することは、競合との差別化を図り、顧客に選ばれるための重要な戦略となります。
この変革を実現するためには、一部の部署だけでなく、組織全体でCX向上に取り組む意識を持つことが求められます。
顧客の価値観や購買行動が多様化したため
インターネットやスマートフォンの普及により、顧客はSNSや口コミサイトなど、多様なチャネルから能動的に情報を収集できるようになりました。
その結果、購買に至るまでのプロセスは複雑化し、企業の提供する情報を一方的に受け取るだけでなく、他の顧客の評価を参考に意思決定を行うのが一般的です。
また、モノを所有すること自体の価値を問う「モノ消費」から、商品やサービスを通じて得られる特別な体験に価値を見出す「コト消費」へと消費者の意識も変化しています。
企業は、こうした新しい価値観を持つ顧客に対し、記憶に残るような優れた体験を提供する必要性が高まっています。
CX(カスタマーエクスペリエンス)向上によって得られる3つのメリット
CX向上への取り組みは、企業に多くの利益をもたらします。
顧客体験価値を高めることで、顧客とのエンゲージメントが深まり、結果として企業の競争力強化につながるからです。
ここでは、CX向上によって得られる代表的な3つのメリットについて解説します。
これらのメリットは企業の持続的な成長基盤を築く上で積極的に取り組むべきテーマといえます。
顧客ロイヤルティが高まりリピート購入につながる
優れた顧客体験は、顧客の満足度を一時的なものに終わらせず、企業やブランドに対する愛着や信頼、すなわち顧客ロイヤルティを育みます。
ロイヤルティの高い顧客は、競合他社に乗り換えることなく、継続的に自社の商品やサービスを選んでくれる優良顧客となる可能性が高いです。
このようなリピート購入の増加は、企業の売上を安定させ、長期的な成長の基盤を築きます。
顧客ロイヤルティを測定する指標としてNPS®などが多くの企業で活用されており、onetooneのコミュニケーションを通じて顧客との関係を深めることが重要になります。
企業のブランドイメージが向上する
顧客が商品やサービスとの関わりの中でポジティブな体験をすると、その会社に対して良い感情を抱き、それがブランドイメージの向上に直接結びつきます。
特に、期待を超えるような感動的な体験は顧客の記憶に強く残り、長期にわたって良好なブランドイメージを形成する要因となります。
良いブランドイメージが確立されると、顧客は価格だけでなく、ブランドが持つ信頼性や世界観に価値を見出して商品を選ぶようになります。
結果として、価格競争から脱却し、ブランド価値の向上を通じた収益性の改善が期待できます。
口コミや紹介による新規顧客の獲得が期待できる
満足度の高い顧客体験をした顧客は、その経験を他者と共有したいという気持ちになることが多いです。
SNSやレビューサイトでの好意的な口コミ、あるいは友人や家族への直接の紹介は、信頼性の高い情報として他の潜在顧客に伝わります。
これは、企業が多額の広告費を投じるよりも効果的な新規顧客獲得手段となる場合があります。
したがって、企業は優れた顧客体験の提供を推進し、顧客が自発的に良い評判を広めてくれるような仕組みを構築することが重要です。
営業活動を補完する上で、顧客からの紹介は強力な武器となり、定期的な調査を通じてその効果を測定し、改善していくべきです。
混同しやすい関連用語との違いを解説
CXを正しく理解するためには、UX(ユーザーエクスペリエンス)やCS(顧客満足度)といった、しばしば混同されがちな関連用語との違いを把握しておくことが重要です。
これらの用語は密接に関連していますが、それぞれが指し示す範囲や目的には明確な違いがあります。
ここでは、各用語の定義を比較し、CXがどのような要素を含む、より広い概念であるかを解説します。
UX(ユーザーエクスペリエンス)との相違点
UX(ユーザーエクスペリエンス)とは、ユーザーが特定の製品やサービスを利用する際に得られる体験や感情を指します。
具体的には、ウェブサイトの操作性、アプリケーションの使いやすさ、製品デザインの美しさなどがUXの対象です。
一方でCXは、製品利用時の体験だけでなく、広告認知、店舗での接客、コールセンターでの対応、アフターサービスなど、顧客と企業とのあらゆる接点における体験を包括する、より広範な概念です。
つまり、UXはCXを構成する一部分であり、優れたCXを実現するためには質の高いUXが不可欠ですが、CXはそれ以外の多くの接点における体験の総体として捉える必要があります。
CS(顧客満足度)との相違点
CS(顧客満足度)は、顧客が商品やサービスを利用した結果、その期待がどの程度満たされたかを測る指標です。
多くの場合、購入直後やサービス利用後といった特定の時点での評価をアンケートなどで数値化します。
これに対してCXは、購入前の認知段階から購入後の長期的な関係性まで、顧客が体験する一連のプロセス全体における感情的な価値を含む概念です。
CSを向上させることはCXを高めるための重要な要素ですが、CXには満足度に加えて、楽しさ、驚き、感動、愛着といった、より多角的で長期的な感情が含まれます。
CSは過去の評価、CXは未来のロイヤルティにつながる体験といえます。
顧客体験価値を高めるための具体的な3ステップ
顧客体験価値を実際に高めていくためには、どのような手順で取り組めばよいのでしょうか。
ここでは、CX向上のための具体的なアプローチを3つのステップに分けて解説します。
顧客の行動や感情を深く理解し、課題を特定して改善策を実行するという一連の流れは、業種や規模を問わず有効です。
MAツールなどのソリューションを活用しながら、自社の状況に合わせた取り組みを進めることが成功の鍵となります。
Step1. カスタマージャーニーマップで顧客接点を可視化する
最初のステップは、顧客が商品を認知してから購入し、その後の関係性が続くまでの一連の行動、思考、感情の変遷を時系列で可視化する「カスタマージャーニーマップ」を作成することです。
このマップを用いることで、顧客と企業とのあらゆる接点(タッチポイント)を網羅的に洗い出し、それぞれの段階で顧客が何を考え、どう感じているかを客観的に把握できます。
具体的なカスタマー像であるペルソナを設定し、その人物の視点でジャーニーを描くことが重要です。
10から20程度の接点を特定し、部署横断で議論しながら作成することで、組織全体の顧客理解が深まります。
Step2. 各接点における顧客の感情や課題を分析する
カスタマージャーニーマップによって顧客接点を可視化した後は、それぞれの接点において顧客がどのような感情を抱き、どのような課題に直面しているかを具体的に分析します。
この分析には、アンケート調査、顧客インタビュー、ウェブサイトのアクセス解析、NPS®によるロイヤルティの測定、コールセンターの応対記録など、定量・定性の両面からデータを収集・活用することが有効です。
特に、顧客の感情がネガティブに振れる「ペインポイント(不満点)」を特定し、その原因を深掘りすることが重要となります。
例えば、認知、情報収集、購入後サポートといった各段階での課題を明確にします。
Step3. 課題解決に向けた改善策を立案し実行する
分析によって明らかになった課題、特にビジネスインパクトの大きいペインポイントから優先順位をつけ、解決するための具体的な改善策を立案し実行に移します。
例えば、「ウェブサイトの情報が分かりにくい」という課題に対してはUI/UXの改善、「問い合わせへの回答が遅い」という課題にはサポート体制の強化やチャットボットの導入などが考えられます。
施策を実行した後は、必ず効果を測定し、その結果をもとにさらなる改善を行うPDCAサイクルを回し続けることが不可欠です。
200を超える細かな改善を地道に積み重ねていくことで、顧客体験は着実に向上していきます。
オンライン、オフラインの垣根なく、あらゆる顧客接点での改善を検討します。
CX(カスタマーエクスペリエンス)向上のための企業事例
CX向上の重要性を理解しても、自社でどのように実践すればよいかイメージが湧きにくいかもしれません。
ここでは、実際にCX向上に取り組み、顧客との良好な関係構築に成功している日本企業の事例を紹介します。
異なる業界の具体的な取り組み例を知ることで、自社のビジネスに応用できるヒントが見つかるはずです。
【事例1】購入後の手厚いサポートでファンを増やしたITサービス
あるITサービス提供企業は、製品を導入した後の顧客サポートに注力することで、高い顧客ロイヤルティを獲得しています。
具体的には、
- 製品の活用方法をレクチャーするオンラインセミナーを定期的に開催
- ユーザー同士が情報交換できるコミュニティを運営
したりすることで、顧客が製品価値を最大限に引き出せる環境を整えました。
さらに、役員を含む社員が顧客と直接対話し、フィードバックを製品開発に活かす仕組みも構築しています。
スポーツイベントへの協賛などを通じて顧客との接点を多様化させ、単なるサービス提供者ではなく、顧客のビジネスを共に成功させるパートナーとしての地位を確立しました。
【事例2】顧客一人ひとりに合わせた提案で満足度を上げた小売店
ある小売店では、顧客の購買データやウェブサイトでの行動履歴を分析し、一人ひとりの趣味嗜好に合わせたパーソナライズ接客を徹底しています。
例えば、来店予約した顧客の過去の購入履歴から好みそうな商品を事前にピックアップしておき、スムーズな買い物をサポートします。
店舗の内装にもこだわり、顧客がくつろげるようにテーブルの大きさや配置を工夫し、プライベートな空間でじっくりと商品を選べる環境を提供しました。
こうした「自分のことを理解してくれている」と感じさせる特別な体験は、顧客の満足度を大きく高め、再来店や口コミにつながっています。
まとめ
CX(カスタマーエクスペリエンス)とは、顧客が商品やサービスを認知してから利用後に至るまでの、企業とのすべての接点における体験価値の総体を指します。
機能や価格による差別化が難しくなった現代のビジネス環境において、優れたCXの提供は、顧客に選ばれ続けるための重要な経営戦略です。
CX向上は、顧客ロイヤルティの醸成、ブランドイメージの強化、そして口コミによる新規顧客獲得といった多くのメリットを企業にもたらします。
自社にとっての顧客体験を見直し、一つひとつの接点を改善していく地道な取り組みが、豊かで長期的な顧客との関係を築く礎となります。